芸能界に憧れる若者を言葉巧みに騙した芸能プロダクション社長が大橋剛が逮捕されました。大橋は”成人年齢を18歳に引き下げる”民法の改正を引き合いに出し、19歳女性を騙していました。いつの時代も法律改正、新たな条例の制定とともに詐欺が生まれます。大橋はどのような手口で女性を騙したのでしょうか。
事件の概要
愛知県の芸能プロダクション、株式会社スリーファイブプロモーションの社長、大橋剛(57)と代表社員 土屋健瑠(26)2人が、女子専門学生(19)に架空の映画出演を打診し、出演のためのオーディションに合格したかのように装って演技レッスンの契約を勧誘するなどした疑いで、2022年10月26日に特定商取引法違反容疑で愛知県警に逮捕されました。
オーディション商法について
芸能界にあこがれる人に対し、「映画に出演できる」と期待を持たせたり「今決めないと合格を取り消すなどと急かして「レッスン料」「事務所登録費用」「宣材写真の撮影費用」などの名目で高額な金銭を要求される契約を勧める手口は、オーディション商法、モデル・スカウト商法などと呼ばれています。お金がないという相手に対しては、借金やクレジット契約を迫り、金銭を要求するケースもあります。
オーディション商法の概要
オーディション商法は、主に以下のような流れで行われます。
1.オーディションの勧誘
・街頭やインターネット、雑誌広告などで「モデルオーディション」や「タレントオーディション」として勧誘されます。
・「あなたに才能がある」「将来有望だ」といった甘い言葉で誘います。
2.オーディションの開催
・実際にオーディションが行われ、参加者には「合格」や「特別賞」などと称して高評価が与えられます。
・多くの場合、オーディション自体は形式的なもので、ほとんどの参加者が何らかの形で「合格」します。
3.高額な契約や商品販売
・「プロになるためにはレッスンが必要」として高額なレッスン料を請求されます。
・写真集の制作費、宣材写真の撮影費用、特別な指導料など、さまざまな名目で費用を請求されることがあります。
・契約書を急いでサインさせようとすることが多く、冷静に判断する時間を与えません。
4.結果:成果が得られない
・実際には、支払った費用に見合った成果が得られない場合がほとんどです。
・契約を解除しようとすると、高額な違約金を請求されることもあります。
スリーファイブプロモーション事件での手口
1.アプローチ
自主制作映画の出演話を持ちかけオーディションを行い、オーディションの合否を伝えると呼び出し又は待機させ、合格を告げた後に有料レッスンの勧誘を行うなど、勧誘に先立ってレッスン契約の締結を勧誘する目的である旨を明らかにしていませんでした。
2.架空の映画への出演を告げる
レッスン契約の勧誘に際し、自主制作映画を作る予定がないにもかかわらず、「自主制作映画を作ることが決まっている」「出演は必ずできる」「やる気があるなら合格とする」「映画の出演者はみんなレッスンを受けてもらう」などと、あたかもレッスンを受講すれば映画に出演できるかのような事実ではないことを告げていました。
3. 強引な勧誘
消費者が契約を渋ったり別の人に相談したいと言っても、「分割できるから大丈夫」「動画配信をすれば稼げる」「人に相談せずに自分で決められない様だったら何もできない」「親に電話してもどうにもならないよ」「親には絶対言わないで」などと執拗に勧誘を続け、消費者に迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘を行っていました。また、県警によれば大橋らは、「家族に相談したい」と断った女性に、「19歳は成人だ。相談せず一人で決めろ」などと迫り、契約に応じさせたとのことです。
※成人年齢の引き下げ
2022年の民法改正により成人年齢が18歳に引き下げられ、18~19歳でも保護者の同意を得ない契約が可能となりました。それまで認められていた未成年であることを理由とした契約の取り消しができなくなったのです。
本件で大橋は被害女性に対し「19歳は成人だ。相談せず一人で決めろ」などと告げており、成人年齢の引き下げを意識して勧誘していたと見られています。
オーディション商法の防止策と注意点
オーディション商法の被害を防ぐために、以下の点に注意することが重要です。
調査を行う
・オーディションを主催している企業や団体の評判や口コミをインターネットで調べます。
・実績や過去の参加者の声を確認します。
無料オーディションの確認
・本当に信頼できるオーディションは、通常、無料または低額の参加費のみで開催されます。
・高額な料金を要求する場合は、注意が必要です。
契約書の確認
・契約書を詳細に確認し、不明な点や不利な条件がないか確認します。
・急いでサインを求められた場合は、一度持ち帰って冷静に検討するようにします。
周囲の意見を聞く
・家族や友人、信頼できる第三者に相談し、意見を求めます。
・一人で決めずに、多角的な視点から判断します。
公的機関への相談
・消費生活センターや弁護士など、公的機関に相談することも有効です。
・被害を未然に防ぐためのアドバイスを受けることができます。
法律はどうなっているのか
事前告知義務
特定商取引法3条では「勧誘に先立って(中略)勧誘をする目的である旨及び当該勧誘に係る商品若しくは権利又は役務の種類を明らかにしなければならない」と規定されています。レッスン料などがかかることを事前に告知されていなければ、同法に違反するということができます。
書面交付義務
特定商取引法4条では「申込みの内容を記載した書面をその申込みをした者に交付しなければならない。」と規定されています。そのような書面を法定書面といいます。法定書面には、以下の事項が記載されていなければいけません。
事業者名・住所
担当者の氏名
商品名および商品の商標または製造者名
商品の型式
商品若しくは権利又は役務の種類
商品・権利の代金、役務の対価
代金・対価の支払方法・支払時期
商品の引渡時期・権利の移転時期・役務の提供時期
クーリング・オフの要件および効果(赤枠・赤字・8ポイント以上の活字)
契約の申込み・締結の年月日
特にクーリングオフの記載についてはフォントまで法律で定められているのです。
この法定書面が交付されなかった場合は、事業者側に刑事罰も存在します。
株式会社スリーファイブプロモーションのその後
合同会社K-power entertainment
株式会社スリーファイブプロモ―ションの社長であった大橋剛は、社名を合同会社K-powerentertainmentと変更し、同じ事務所で、同じ内容の営業活動を行なっておりました。エキストラや仮歌入れのアルバイト募集又はオーディションを口実に消費者を呼び寄せ、レッスンの受講契約を勧誘を続けていたのです。
業務停止命令
2023年2月、愛知県は合同会社K-power entertainmentおよび大橋剛個人に対し、18か月間の業務禁止命令という行政処分を下しました。
また愛知県では、消費者被害の拡大防止等のために消費者に十分な情報を提供する観点から社名および氏名を公表しています。
愛知県ホームページ
エキストラ等のアルバイト募集やオーディションを口実に呼び寄せ、レッスンの受講契約を勧誘していた事業者に対する行政処分及び勧告等について
大手芸能事務所による注意喚起
芸能界を夢見る若者を狙ったオーディション商法による被害は後を絶たず、成人年齢の引き下げもあって、ますます増加するおそれもあります。
大手芸能事務所であるアミューズは公式X(旧Twitter)にて、オーディション商法に対する以下のような注意喚起を行なっています。
(引用先:https://x.com/AmuseLegal/status/1811245484847308994)
『当社(アミューズ)社員や当社の関係者だとウソをつくスカウトについての通報が増えています。いわゆる「にせものスカウト」「なりすましスカウト」です。被害に遭われませんように十分にお気を付けください。
「にせものスカウト」「なりすましスカウト」が使う言葉や行動の例は、次のとおりです。 (これらは、過去に当社に寄せられた通報などをふまえたうえでの、あくまで例です。)・「今日は休日だから、名刺も社員証も持ってない。」
・「名刺を悪用されたことがあるので、名刺は渡さない。」
・「今回のスカウトは秘密の特別プロジェクトだから、アミューズに問い合わせても、会社の人は僕のことは知らないと言うはず。そう言えと僕から社員に指示してあるから。」
・「僕はアミューズさんのトップから頼まれたプロのスカウトなので、アミューズの名刺や社員証はない。アミューズさんの社員も僕のことは知らない。トップから直接頼まれたから、トップだけが僕を知っている。」
・「僕はアミューズさんの社員ではなくてアミューズさんの代理のスカウト。アミューズさんは芸能事務所なのでマネージャーはいるけど、スカウトするための人は、アミューズさんの社内にはいない。スカウトする人は外部の人。業界では常識。そんなことも知らないと恥をかくよ。」
・「アミューズに問い合わせるのなら、君は終わり。スカウトである僕のことを信用してくれないということになるから、僕も君を信用できない。信用できない人をデビューに持って行くことはできないから。信用するのか信用しないのか、2つに1つ。どうする?」
・数千人のフォロワーがいるアカウントや「アミューズ事務所」のような記載があるアカウントからDMなどを送信してきて、オーディションを受けるよう勧めたり、雑誌やSNSに掲載するための素材の撮影のためにスタジオなど(当社のオフィス以外の)指定場所に来るように仕向けたりする。当社がスカウトする場合、以上の例のようなことは言いませんし、しませんので、当社社員や当社関係者を名乗ったうえで以上の例のようなことを言ったりしたりする人は、100%確実に、「にせものスカウト」「なりすましスカウト」です。
また、皆様を信用させるために、「では、アミューズの会議室で話しましょう」などと言って、最初はアミューズの東京オフィスで待ち合わせの約束をして信用させておいて、後で、約束の時間の直前になってから「前の仕事が延びたので、すいませんが場所を変更させてください」などと言って別の場所(ホテルなど)に呼び出すという悪質な事例も発生しています。当社がスカウトする場合は、そのようなことはしません。』
まとめ
オーディション商法は、夢や希望を持つ人々を狙った詐欺的な商法です。
慎重に調査し、冷静に判断することで被害を防ぐことができます。
もし疑わしいと感じたら、必ず周囲に相談し、専門家の助けを借りることをおすすめします。